最近、ある両大腿義足ユーザーによるブログ記事を読む機会がありました。
その記事には両大腿義足ユーザーは歩くのが難しいことや義足のアライメントやソケット角度のこと、リハビリの重要性などについて述べられていました。これまで義足ウォーカーが取り上げた内容と酷似しているもの、または文体模写とも受け取れる文章が散見されるので、たぶん義足ウォーカーの読者の方なのでしょう。いつもご覧いただきありがとうございます。今回はそのブログ記事を一通り読んで思った感想を、少々苦言を交えて書きます。
※以前投稿した記事「誤った両大腿義足の情報」の中で挙げた以下2つのテーマについて触れています。
- 両大腿義足のリハビリ <内容と期間について>
- 断端の長さによる影響 <義足歩行獲得・達成率について>

まず、両大腿義足で歩くことは他条件の義足ユーザーに比べて難しいのは確かです。
しかしそのブログの著者は、あくまで自分の経験則でしか義足について触れておらず、まるでそれが全ての両大腿義足ユーザーに当てはまるかような言い方をしています。しかしその各説明には、情報の証拠や裏づけ、出典または根拠に乏しいため説得力に欠けるものでした。また、視野が狭い印象も受けました。
確かに経験談とはその人が体験してきたファクトですから、ときに主観で伝えたくなる気持ちは分かります。きっとこの人は義足で歩くためにそれなりの努力をされてきたのでしょう。しかし、ご本人のそれまでの経験が必ずしも僕を含むその他全ての両足大腿義足ユーザーに共通するとは限りません。
例えば両大腿義足で歩けるようになるための一環として、”スタビー”と呼ばれる短義足を使用したリハビリが必要です。あくまで僕個人が過去に経験してきた事実に基づいた考えで言わせていただくと、このスタビーを使用する目標は主に2つあります。
1つ目は義足を履いて立つことを覚えるため
2つ目は体幹を義足寄りに鍛えること
高齢でなく健康で痩せ型、運動機能の制限がなく断端にも特に問題がないと仮定した場合、スタビーに費やすリハビリの期間はせいぜい1ヶ月もあれば十分です。毎日6時間ほどスタビーを履いてリハビリを行っていれば、およそ1ヶ月後には2つの目標を達成するでしょう。そしてその頃には義足を扱う基本的な感覚は身についているはずです。
その感覚を習得したら少しずつ義足を長くしていき、なるべく早く膝継手を付けて義足での歩行に慣れることがとても重要だと考えます。
義足長を長くする理由は、身体をより義足向けに鍛えて持久力を養っていくと共に、義足歩行(特にストライド)の感覚を養うことでもありますが、実は主な理由はメンタル面なんです。長期的で厳しい両足大腿義足のリハビリだからこそ、本人がリハビリを続ける目的意識や今後の自信にも繋がるため、結果が出たらなるべく早く義足を伸ばし、義足の良い部分も悪い部分も分からせてあげる必要がある、と僕は考えます。
スタビーは短いゆえにストライドが狭く歩くのが大変で、ただ長い期間やれば良いというわけではありません。狭い室内はスタビーの方が移動が楽というメリットはありますが、リハビリの効果の面ではいつまでやってもさほど効果は見込めないし時間の無駄です。だったらさっさと義足を長くして先に進んでいった方が、PT(理学療法士)・PO(義肢装具士)・リハビリを受ける本人すべてに対して合理的なのです。また、スタビーでの歩き方が癖づいてしまうと別の問題も生じます。遊動式の膝継手を付けた後もスタビーでの歩き方のままだと、十分に粘れずワイドベースで不恰好な歩様になってしまいます。内股を閉じられずに大股気味で歩いている両大腿義足ユーザーがいますが、一因としてスタビーでの歩き方が染み付いてしまっているからです。
話が逸れましたが、そのブログではスタビーでのトレーニング期間は半年以上と紹介されており、そうしないと自立歩行を獲得するのが困難になるそうです。しかも1日あたり8~16時間もスタビーを履き続けているそうですが・・・。それだと就寝中以外はほとんど(ずっと?)スタビーを履いていることになります。現実的ではありませんね。
また、見本として海外の両大腿義足ユーザーの動画をたびたびブログ内に掲載していますが、軍人が多いのも「?」です。そもそも軍人と一般人とでは備わっている基礎体力も段違いですから、比較すること自体がナンセンスですね。
と、まぁ今回はくどくど書いてしまいましたが、そのブログはいろいろ突っ込みどころが多いです。記事の内容によってはコメントしようと思いましたが、コメント欄も閉じている始末。
ブログやSNSで発信することはその人の表現の自由ですが、ご本人からの視点のみで間違った情報を発信することはとても危険です。とくに義足の世界は狭い上、両大腿義足ユーザーなんてそうそういませんから。そのブログの人もそうですが、歩行に大きく影響を及ぼす断端の長さや状態については一切触れられていません。ここがもっとも重要なのですが、短断端や難断端についてを一切無視して、自分の主観だけで一概に”両足大腿義足はこーだ!”と言い切るのはさすがに違和感を覚えます。両大腿切断という共通の条件でも、義足歩行となると段端の長さが1cm違うだけで条件は対等ではありません。きっとその辺りの事情を理解できていないのでしょう。
ちなみにその人の断端は長い方で、歩く条件としては”まぁまぁいける”程度だと予想します。もちろん義足が適合していることが最低条件ですが。その割にはいつまで経ってもうまく歩けていません。主な原因は、担当POの義足に対する技術不足と、本人の義足で歩くセンスが欠如しているから。そしてスタビーでの歩き方に依存しているからでしょう。
先日の記事で書いた通り、筋トレやストレッチをいくらやっても義足が適合していなければ、未来永劫歩けるようにはなりません。
また、義足の特性を体で往なし乗りこなす微妙な感覚を獲得しなければ、真に義足歩行を習得できたとは言えません。もちろんそれらを習得し維持していくためには、いかにしてより良いPOに巡り会えるかが必要不可欠です。それだけに、義足を製作するPOの責任は重大なのです。
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