股義足について

僕の左足は股関節がある(大腿骨頭および大腿骨は残存している)ため、大腿切断に分類されます。
しかしレントゲンでみると、残っている大腿骨の長さはおよそ5cmほど。大腿切断の中でもさらに極短断端に分類されます。
大腿切断とはいえ、股離断にかなり近い切断高位です。実際に、知人である股義足の方と同じ断端の長さでした。

今でこそ左の義足は「股義足様の大腿義足」という完全オリジナルの様式で落ち着いていますが、リハビリでは約2ヶ月ほど股義足で歩いていました。いわゆる、ソケットは股義足用で股継手がついているものです。
両足大腿切断で大腿義足も股義足も経験しているのは、非常に稀有な症例かと思います。

そこで今回は、僕が股義足で歩いて感じたこと、大腿義足の人では分からないであろう股義足の辛さを僕なりに述懐します。


股義足のメリットは「ソケットの安定感」これに尽きます。
腰全体がソケットに覆われていることで、身体への密着度合いが高くなり、剛性も高く、まるでソケット自体が太い杖のように感じられます。
それゆえに、デメリットは「もどかしさ」です。義足で歩くイメージを頭で描いていても、身体で具現化するのがとても難しく、歩行中は常にもどかしさを感じていました。

股義足は股関節の可動範囲が狭いがために、どんなに大きく足を動かしていても実際には4割程度の範囲しか動かせず、筋力も十分に発揮できませんでした。歩幅も大腿義足の半分くらいしか出ません。つま先まで体重を粘る(義足を上半身よりも後方に残す)こともかなり難しいです。

また、股義足側を一歩前に出す際、骨盤を使ってソケットを振り出すのですが、僕の場合どうしても義足が内側に回転(内旋)してしまいました。※水平面上で想像するとわかりやすいです。
健側が存在する片足股義足の場合は、健側で踏ん張ることで自然とカバーできると思います。健側がない僕はその回転を食い止めることができず、前に進めず踏ん張ることができません。
とてつもない疲労度なのに自由度はかなり低い、非現実的かつ非効率な歩行になります。

また、僕がこれまで見てきた股義足の人たちは、みんな反対側の健側で伸び上がる特徴があります。伸び上がりの程度に差はあれど、必ず健側のつま先を使って股義足側を振り出しているのです。
伸び上がることで股義足側の骨盤を高くもちあげ、義足のつま先がひっかからないようにしているのだと考えます。僕はこの伸び上がりという戦略ができないため、つま先がひっかかってしまい階段なんてもっての外、低い段差でさえ乗り越えられません。


次に股継手の話。僕は2種類の股継手を試しました。
ottobock社からでている7E9という油圧シリンダー内蔵の股継手は、ブラブラな機械式の股継手に比べると明らかに違います。屈曲時の感覚はヌメッとした感じで、特に踵をついたときの衝撃を受ける感覚がゆるやかだったのが印象的でした。
しかし、僕には重すぎました。それと、歩行の快適さと値段が釣り合わず、「うーん、購入はないな・・・」と判断しました。ちなみに試着時は2018年でしたが、7E9だけで45万円ほどだったと記憶しています。

他の義足と股義足の大きな違いといえば、やはり関節数(継手の数)の違いかと思います。
股義足は3つの関節を操る上に、身体の軸の部分にあたる関節がないことで、不都合が多く感じられました。

  • 義足を振り出したとき、股継手の伸展を待ってから踵をつく
    →大腿義足は膝継手の伸展だけを気にすれば膝折れの心配はないですが、股義足は股継手が折れること(股折れ?)も考慮しなければなりません。踵をつくときはクワで畑を耕すような感覚に近いです。
  • 股継手の衝撃がダイレクトにくる
    →身体の中心に継手があることで、踵をついたときや振り出したときに大きな衝撃が走ります。
  • ソケットの煩わしさ
    →足だけに履くのではなく腰全体がソケットに覆われるため、脱着や更衣に手間がかかります。

結論としては、股義足は他の義足と比較すると一線を画していて、「義足+アルファの難しさ」という印象でした。義足脱着の煩わしさ、3つの関節を操り日常歩行まで持っていくスキル。それらを鑑みて、股義足を履くことは大腿義足よりも難しく苦しいものです。とくに僕のように両足切断の場合や、健側となる反対側の足が不自由な場合、股義足の日常使用は厳しいでしょう。リハビリ中は履けていたとしても、実生活で使用し続けることができるのか僕には分かりません。ただひとつ言えることは、継手は軽量の物の方が身体への負担も軽く、日常歩行を想定した場合、歩きやすいと思います。

※上述はあくまで僕の場合です。健側がなく両足が短断端で、且、スタビーに近い義足長であったこと。健側のある股義足ユーザーの場合は歩行時の印象が大きく異なるはずですので、この限りではありません。

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