前回:3話「救急搬送」

ストレッチャーが動く音と振動で目が覚めた。病院に着いたらしい。
救急車のリアハッチが開くと、数人の医療従事者が待機してくれていた。僕は救急入口から入ってすぐの救急処置室に運ばれた。
大勢の医療従事者が僕を取り囲む。色々な声が聞こえてくるなかで話しかけてくる看護婦。
※当時の様子を再現するため「看護婦」と表記しています
看護婦「お酒は飲んでいなかった?」
俺「いえ、飲んでいません。」
余裕がない様子で走っている看護婦もいた。
僕はストレッチャーから緑色の処置台に移され、仰向けで寝かされた。
照明が眩しい。
そしてすぐに躊躇なく着ていたジャケットやジーンズなどをハサミで切られ、全裸になり毛布を掛けられた。
引きつった笑顔で懸命に話しかけてくるさっきの看護婦。僕はたぶん大怪我なんだろうなぁと察し、少し怖くなった。
そのころの僕は冗舌で、「そこは痛いから触らないで(笑)」とか、「カレーが食べたい」などと話ができるほど元気だったらしい。その後、レントゲンやCTなどの検査を受け、すぐに緊急手術を受けた。

午後5時過ぎ
手術が終わり麻酔も覚め、沢山の点滴と、ベッドに寝かされた状態で手術室から出てきた。
窓がない圧迫感のある狭い通路では母が待っていた。午前中に手術室で記憶がなくなった。そして気がついたら蛍光灯下、母が僕の顔を覗きこんでいる。
少し混乱している僕に母はこう言った。
「ばか!」
母の顔を見て僕は少し笑った。
気持ちを必死に押し殺していたのが分かった。そう言うのが精一杯だったんだと思う。
母は消防署から勤務先へ電話がかかってきたとき、自宅が火事だと思ったらしい。
それから僕が事故に遭い、命には別状がないことを知らされた。骨折でもしたのかと思い、搬送先の病院に向かったという。そして病院に着いて、看護婦から「これが信二君の左足です。」と告げられ、黒い袋の中身を見せられたとき、頭の中が真っ白になったという。
手術は一応終わった。
傷の洗浄をするため、手術室の水を全部使ったらしい。
医師の説明によると、左足首の引き千切れた動脈が切れたゴムのように付け根あたりまで跳ね上がり、それを見つけ切れなかったとのこと。そのため、止血ができておらず、またいつ大出血が起きるか分からない状態だという。
また、右手は簡易な添木のようなもので肘から下を固定されていて、肩から包帯が巻かれていた。肘は折れており、手首は脱臼骨折、手のひらは引き抜きで神経が伸びてしまっている。両足の処置が大変で、一度で右手までは手術できなかったらしい。
いっぽう、手術直後の僕はまだ元気な方だった。両足は分厚い生地の包帯に巻かれていて傷は見えない。しかし、沢山のプレートや針金のようなもので足は固定されており、ベッドの足下には重りがぶら下がり、牽引されていた。
午後8時過ぎ
個室に入るとベッドテーブルの上に食事が置かれていた。食欲は全くなかったけど、うどん1本を無理矢理たべた。
その日は金曜日の夜。
そこから僕の容体は悪化していく。
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