1話「事故当日の朝」

1995年5月12日
朝霧がかったその日。
6時からコンビニエンスストアのアルバイトがあるため、4時30分ごろに起床。どんより曇っている静かな朝。

5時過ぎに、ピンク色と黒色のストライプ模様のライダースジャケットを羽織り、自宅の裏口から静かに出て駐車場にとめてあるホンダ製VFR400Rに跨った。
フルフェイスのヘルメットを被り顎紐を締め、右手でスモークシールドを上げてグローブをする。赤色と黒色のツートンカラーの燃料タンクは結露している。それを軽く払い、チョークを引いてイグニッションキーをONの位置まで捻ると、緑色のNランプが点灯した。静寂のなかセルボタンを押すと、ホンダのV4はいつも通りに目を覚ました。

一息ついて計器の方に目をやると、キーリングに付いていた御守りがない。そういえば昨日、紐が切れたことを思い出した。アイドリングが落ち着いたことを確認し、チョークを戻した。軽くアクセルを煽ってギアを1速に入れ、ゆっくりクラッチを繋いで走り出した。いつも通りの朝、いつもと同じ光景、いつもと変わらない体調。
深い霧のなか、アルバイト先へと向かった。


午前8時ごろ
霧もすっかり晴れていた。
通勤通学途中のお客さんで混む時間。
歳がひとつ上の友人が突然会いに来た。
通学途中にわざわざ遠回りをして顔を見に来てくれた。

俺「あれー!いきなりどうしたの!?」
友人「裏にお前のバイクが止まってたから見てきた。タイヤ換えた方がいいよ。」
俺「なんだよ急に。(笑)また今度会おうな。」
友人「いいよ。元気だったらな。」

そう言い残し、コーラを1本買っていった。

午前8時30分ごろ
今度は母が突然の来店。
レジの前にそっと品物を置く母。後ろにはお客さんが並んでいたので、会計をしている間はほとんど会話をせず。商品袋を持つ後ろ姿を見送った。

午前9時40分ごろ
店員に仕事の引き継ぎを済ませ、帰宅準備のためロッカー室に入る。
店のオーナーとその奥さんと軽く会話をしたあと、身支度を整えて裏口から出てバイクに跨ると、何故か母に会いたくなった。

午前9時50分ごろ
母の勤務先へ向かうためバイクを走らせた。バイト先から母の勤務先までは30分程度の距離。

その日は快晴で暖かい日だった。
通ったことのない農道をグングン進む。
5月のちょうど田植えの時期。左右に広がる田園風景は、まるで緑色の絨毯のようでとても美しかった。
10分ほど走ると、やがて見覚えのある交差点に差し掛かった。その交差点を左折したら1km以上続く直線道路。風がないので煽られる心配もない。左折すると前方にも反対車線にも車両は走っていなかった。

僕はアクセルを全開にした。

2話「事故の瞬間」

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